「お墓が遠方にあってお参りになかなか行けず、お墓の将来が不安」というお悩みをお持ちの方は多いでしょう。大家族が核家族へと変わり、若い人は地方を離れて都会へ移り、少子高齢化が進んでいることもあって、すでに地方のお墓を継承した人やこれから継承しなければならない人にとって、ご先祖さまのお墓を今後どう考えていくか、頭の痛い問題です。墓地の永代使用権は子々孫々まで継承されますので、お墓の永代使用権を持つ代表者の方が亡くなれば、それを継承する人は契約を結び直さなければなりませんが、その手続きを怠ったり新たな継承者がいない場合、いても名乗り出ず連絡もつかない場合は、永代使用権が無効となり墓地が更地に戻されるという最悪のケースも起こり得ます。また女性の継承者のなかには、自身のご実家のお墓とご主人のご実家のお墓の両方を見ているという方も少なくありません。ご夫婦で計7か所ものお墓に毎年お参りしているというお話も聞いたことがあります。しかしお墓をお移ししたり永代供養墓への改葬には、お墓の規模にもよりますが墓石の撤去、移転先の墓地の使用料、墓地の工事などを含め百万~三百万円程度の経費が必要で、経済的な理由から遠方のお墓をそのままにしておられる方、新たなお墓をなかなか買い求められない方が少なくないと思います。また、愛着ある土地からご先祖さまをお移しすることに抵抗もあるでしょう。
もし、お墓をお移しするか、お仏壇をお移しするか、どちらを先にするべきか迷われたら、お仏壇を優先してください。理由はお墓とお仏壇、それぞれの性格の違いにあります。まずはお墓との距離、お仏壇との距離の違いです。お墓に出かけるのはご両親のご命日、春秋のお彼岸、そしてお盆ぐらいですが、お仏壇は家の中にあって朝な夕なに拝むもので、生活の身近にあります。また故人の墓前にお参りしたいという人を、お墓まで案内することは難しくても、お仏壇にお線香をあげていただくことは容易です。そして何と言いましても、お仏壇は仏教を信仰するという一家のシンボル、そしてご先祖さまに手を合わせ頭をたれる心を親から子へ、子から孫へ伝える大切な場です。総合的に見て、お仏壇は一家の中心になれますが、お墓は一家の中心になれないとわたしは思います。ご実家のお仏壇が大きすぎて譲り受けることが難しければ、新たにお求めください。大きさにはこだわらなくて大丈夫です。そしてお仏壇はいつ、どんな動機で買っても構いません。「家族に死者が出なければ買ってはならない」「お仏壇を買うと新仏が出る」という俗信を耳にしますが、これは葬儀後に仏壇を買うケースが多いところから生まれた迷信で、まったく根拠はありません。購入の動機は「永年の念願がかなった」「自分や家族が大病にかかったが、苦労の甲斐あって全快した」「低迷していた会社の業績が上昇した」「待ちに待った子宝に恵まれた」「息子や娘家族が家を新築した」など様々です。自分の念願がかなって生かされているのも、ご先祖さまのおかげという感謝の気持ちが何より大切です。もちろん葬儀や法事といった必要に迫られて購入なさっても良いですが、そういうときほど物入りが重なって資金に苦しく、慌ただしく不安な気持ちでゆっくりお仏壇を選べない状況が考えられます。経済と時間に余裕のある時、またお元気な時にご用意いただくと、心にゆとりも生まれます。そのことで安心して手を合わせる満足感と安心感を生み、ご先祖さまに見守られて家族が静かに暮らせていると実感できる、お仏壇本来の役目が果たせます。買い替えで不要になったお仏壇は、菩提寺を通じて他人に寄贈することもできます。つまり、経済的な理由からお仏壇を買えないご家庭との橋渡しを、菩提寺にお願いするというもので、新しいご家庭に使っていただけばお仏壇もご先祖さまもさぞ喜ばれることでしょう。
「南無阿弥陀仏」と書いた掛軸を家庭に掛けていたのが、お仏壇の起源と言われます。つまり、浄土真宗が最初なのです。(住職)
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